*奇跡のような一時を過ごしていた。すべては偶然の連続だった。誰が卒業式前の卒業旅行中に旅先で就職する機会に恵まれるであろうか。キャサリン・フィ ンドレイ、僕の大好きな建築家だった。旅先で彼女の名前を耳にすること自体、興奮すること。それは、僕にとっては奇跡だったのだ。

 *そこには無数の夢のようなプロジェクトが、今この瞬間に湧き起ころうとしていた。未だ、誰も見たことのないようなものがあったのだ。そしてそれ以上 に、キャサリンという人柄に惹かれた。この事務所で働かせてくださいと言うのに、それ以外の理由はなかった。もちろん海外で、ロンドンで、働きたいなど一 度も思ったこともなかったのだから。ただその時、彼女のもとで働いてみたいと思ったのだ。

 *事務所の人たちは素敵な人ばかりだった。最初は何一つしゃ べれない。プリント一つしてもらうにも、何を何と言っていいのやら。そんな状態で飛び込んだ自分を思うと、とんでもないことをしたのかもしれない。いや、 それよりもイギリスという国の、この事務所の懐の深さに感謝しなければいけないだろう。皆、いつも温かく接してくれた。むろん英語のスピードは決して衰え ることはなかったのだが。。

 *中東でのビッグプロジェクト。事務所の真ん中に転がってい る1/50の模型は、見慣れすぎていて、今では誰も反応もしなくなっている。しかし、この一つの建築が世に示す力の大きさというモノは、計り知れないと、 僕は今でも信じている。毎日オフィスへ来てこの模型を見ては、この建築が地に降り立つ日の情景を思い浮かべていた。他の未だ見ぬ夢の建築も、同じような気 持ちで見ていた。新しい歴史の扉を開こうとしている。まさに今その瞬間に僕らは立ち合っているのだ。そういう気持が根底からこの事務所を突き動かしている のだと、感じずにはいられなかった。

 *間もなく、BBCのコンペティションに関わる。担当は模型 であったが、今まで経験したことのある模型ヅクリとは違っていた。ボスは僕を一人のプロジェクトメンバーとして扱ってくれたのだ。各専門家とのミーティン グにも参加させていただいた。特にオブアラップのセシルバルモンドとのやり取りは、毎回楽しみとなっていた。明日は彼が来る!と、そういう意気込みで頑 張っていたのを覚えている。彼が加わるミーティングは、エキサイティングそのものだった。なぜならそれは、単なる建築屋と構造屋の話し合いではなく、建築 家同士のぶつかり合いだったのだから。

 *オーガニック、サスティナブル、エンヴァイロメント...  ウシダ・フィンドレイの建築を簡単に表すキーワードはいくつかあげられる。ウシダ・フィンドレイ初期に日本で建てられた一連の住宅群のように、もちろん 可視化される有機的なカタチは、大きな要素でもある。しかし、このような建築が、一体どのような流れの中で構築されているのだろうか。そんな単純な興味 が、僕の心の中に大きく潜んでいたことは確かだ。時に"好き"は未だ見ぬ部分への探求心も含んでいる。

 *だから、何より時間... それは、事務所にいる時は毎 日、キャサリンが話しかけてくれることだったのかもしれない。ボスと毎日会話が出来ると言う以上に嬉しいことはない。ほんの一瞬でも、彼女の口から発せら れる一言一言、描かれる絵、動き...すべてが、いつどの瞬間も刺激的だった。もちろんそれらが、理路整然としているわけではない。それでもある時から、 蜘蛛の巣のように繋がっていったものだ。あぁ、なるほど... と。

 *そんな彼女のもと、この場で巻き起こっている全ての事件は、ニホンという状況から飛び込んできた僕を、リセットするには十分だった。それほどにキャサリンの一挙手一刀足には、今でも驚きと新しい可能性を、最後にちょっとしたHappyまで与えてくれる。

 *いつでもこういった行動にはパワーが費やされる。このほ ど、事務所を辞めさせていただくことを決意した。キャサリン他、事務所の方々の理解を経て、先日事務所を去った。事務所を去る直前に、スタッフの皆が予想 外のタイミングでパーティーを開催してくださったり... キャサリンは左のような素敵な手紙まで僕に送ってくださった。graftonというプロジェク トがある。東京からロンドンへ拠点を移したUshida Findlay Architects (UK)の創生期に勝ち取ったコンペ作品だ。この図面に皆のメッセージが残された一枚の紙は、一生の宝物だ。

 *ここで過ごした時間は、単なる時間で捉えることは不可能だろう。"環境は、変化を促しますね。時間の肌理をずいぶんと感じていることでしょう。"美術家の中村政人さんは、そうメッセージをくださった。まるで心見透かされているようでビックリした。

 *もちろんこういう決意の理由など単純なものではない。ただ、ロンドンへ来てから、ずっと"日本"あるいは、"東京"ということを常に考え続けていた。不思議なものだ。今まで見えなかったものが、怒濤のように目に映ってくるのだから。ロンドンで、Ushida Findlay Architectsで、キャサリン・フィンドレイのもとで、新たなスイッチを入れられて、さらに前に進むのみである。

 *きっと今年の初めから、ある中東の現場が始まっていることだろう。スペインのホテルも順調に現場が進んでいる。数年後、いくつかの"未だ見ぬ"建築が建ち上がる。その時はまた、実物に触れてみたい。新たなステージへ向かうUshidafindlay Architects (UK)、そしてボス:キャサリン・フィンドレイへ。

 奇跡の、夢の一時を有り難う。

 *Thank you for
 Ushidafindlay Architects (UK)

 [キャサリン、ロジャー、ロザリン、カズミ、ニキ、ピーター、ケイト、ケリー、マイク、トースティン、ジャスティン、マット、バゲット、イネス、ルー、ボリス、ポール、クリスティーン、カースティン、アネマリ、ミロク、ジョージ、ダニエル、ミサ(順不同)]

 

2004.01.03
おおにし まさき

 
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